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音楽家のためのフェルデンクライスワークショップ〜ジストニアに悩むピアニストのために〜(9/16,17)

2017年10月8日

ジストニアは音楽家にとって深刻な問題

音楽家は、楽器や自分の声を使って、音楽によって自己表現をします。厳しい練習をし、スキルアップして高い目標に近づくために膨大な時間を使います。プロ、アマを問わずに言えることですが、特に長い年月にわたって長時間の練習を続ける演奏家は繊細なテクニックを習得したことの代償のように、様々な問題を抱えていることがよくあります。

もっとも、音楽家に限らず何かの技術を習得してそれを使い続けることにより様々な問題が発生することはごく普通のことです。そして、人間という動物は学習によって技術を身につけて、それを繰り返し使い続けることをとても好みます。そして、反復によって起こる問題もまた、私たちにとってはごく普通なことなのです。

音楽家が抱える体の問題の中でも解決することがとても難しいのがフォーカルジストニアです。体の使いすぎによって起こる筋肉や靭帯等の問題ではなく、いわば「学習のエラー」が脳に起こり、本人が意図していない動きが楽器を演奏する指に現れるのです。有効な治療法が確立されておらず、プロにとっては大変深刻なものです。しかも、かなりのパーセンテージの音楽家がこの症状で苦しんでいるとか、、。

フェルデンクライスはジストニアにぴったりの学習法?

今回のワークショップはこの問題を抱えて悩むピアニストを対象にしたものでした。フェルデンクライスメソッドは動きや感覚を通して脳に働きかけるものであり、癖や習慣的な行動を変えることで人間の本来持つ可能性を引き出そうとするものですから、いかにも、ジストニアという問題に対応するには適しているように思えます。私自身も、何年も前に初めてフォーカルジストニアという治癒困難な病気が演奏家のトラブルの一つとして紹介されたのをさるレクチャーで聞いた時に、「これはフェルデンクライスの範疇ではないかしら?」と思ったことを記憶しています。その後しばらくして、フェルデンクライスプラクティショナーでもあるピアニストの松本裕子さんと一緒にジストニアへのアプローチを試みるようになりました。

ワークショップの参加者が何を体験したか?

松本さんはすでにジストニアのピアニストへの個人的なピアノレッスンを続けていて、成果が少しずつ上がってきているようです。優秀な彼女のことですから、きっと近い将来素晴らしい成果を上げるだろうと予想しています。

ワークショップのメインタイトルは「音楽家のためのフェルデンクライスワークショップ」ですから、フェルデンクライスの学習法を実践し、理解することで問題の解決や能力の向上を図ることが全体の枠組みです。その中で、参加者に通常フェルデンクライスメソッドで行うATMレッスンとFIレッスンを体験していただくのが私の役割でした。そして、フェルデンクライスとは一体何であるか、というレクチャーも、、。

一人一人にピアノを弾いてもらい、演奏の様子と何を感じているかを対話によってチェックしました。次に、ATMを行い、FIレッスンを受けてからすぐにピアノに向かうというプロセスに進みました。レッスン後の、体の動きと感覚が変化し統合されて学習能力が高まったところで松本さんのピアノレッスンを受けていただく。この場面は新しい可能性への広がりと音楽が本来持つ大きな感動が重なっているように感じられました。参加者一人一人にそのプロセスを経験していただくのは、プログラム上は悩んだ部分でしたが、結果として他の参加者の変化と驚きを目の当たりにして共有することが、このワークショップの体験の大切な部分だったのだと思います。

私自身の体験したこと:何ができて、何ができないか

ピアニストのジストニアは指の動きに現れているのですが、それがそこにあるのははっきりしているのですが、微妙で、素人の私にはなかなか分かりにくいものです。演奏するという行為に含まれている、音楽、感情、体の動きといった要素のつながりを読み取ることが簡単ではないからでしょう。ここいら変になると、松本さんの指導を「へえ〜!」と思いながら見ている自分がいました(笑)。ピアノ演奏にフェルデンクライスを応用するというのは、彼女のようなブリリアントな方でないとなかなかできないことでしょう。しかし、私にとっても、動きのパターンやつながり、制限というような要素からアクションの全体を捉えることは、ピアニストでも普通の人と同じように可能です。目の動き、頭のホールド、骨盤と胸郭、呼吸、、。指摘できることがいくつかあり、お役に立てたかなと思いました。

参加者のコメントをアンケートから一部ご紹介します

フェルデンクライスの動きのレッスンのあと、すぐピアノに向かう、そして自分の手をモニターで客観的にチェックしながら、また先生方や仲間にしていただきながら実践できたこと、また他の方たちのを観察できたことは、色々な気づきもあり、まだまだ自由には弾けませんが、これなら弾けるかもとものすごく思いました。(実際、帰宅後、信じられないくらい楽に、気持ちよく弾けました!)
これを地道に続けていくしかないと思ったので、同じようなワークショップがあったらまた参加させていただきたいです!
(Aさん)

ワークショップの後から、練習段階ではものすごくよい手ごたえを感じています。
みなさんより症状は軽かったのかもしれませんが、私も指が頑固に言うことをきかなくなり、かたくなった体にストレスを感じていました。パフォーマンスに自信が持てず、演奏への意欲も失われつつありました。それはみなさんと変わらないと思います。

今はそこから抜け出せたような感じがあります。
ただ、まだ定着していないので、またダメになったり、迷ったりすると思います。
また、悪い弾き方で覚えきってしまっているところは、そこから離れるのがまだ難しいです。けれど、一度知ることができた体の快感を求めていけば、きっと弾けるのだと確信できるようになりました。

これをまず日ごろから定着させ、自然にその動きができるようになることと、本番の緊張状態で力が発揮できるようになるために、学びを深めていきたいです。
また、自分の体をもっと快適にするために、さらにフェルデンクライスを学んでいきたいです。
(Nさん)

これまでをかさみ先生のFIを受けた日は帰ってピアノを弾くと変わっていたので、今回FIやATMを受けてすぐにピアノに向かって確かめられたこと、弾く時の体の状態を具体的に関連付けていただけたことがとてもよかったです。
このような機会を作っていただき、本当に感謝いたします。また、自分と同じように悩んでいる方とご一緒できて、それぞれ症状の出方もさまざまでありながら共感し合えた     こと、とても嬉しく、貴重な経験でした。そしてどの方も演奏を諦めることなく、意欲的に活動されていることに励まされました。

いつもの個人レッスンと違い、ピアノを弾く姿をかさみ先生に見て頂き、ATMの様子を松本先生に見て頂き、その上でアドバイスを下さることにとても意味があったと思いました。貴重な勉強の機会を作って頂き本当にありがとうございました。
(Rさん)

さいごに

今回の経験は私自身にとっても大変有意義なものでした。それは、改めてフェルデンクライスメソッドが持つ普遍性を実感できたからです。「ひとりひとりが違う、そして皆がおなじ」。個別性に徹底的にこだわることによって、多様な人々の共通性を捉える普遍的な視点を得ることができるだと思うのです。

また、松本裕子さんとのコラボレーションも良かったと思います。二人とも意気込みを持って準備を重ね、ディスカッションをして、最善の努力をしました。彼女のような優秀な指導者とワークショップを共同でできたということが本当に嬉しかったし、また是非、というか今後も協力して発展させていきたいと思います。(2017年10月9日記)

参考リンク

<対談>音楽家とフェルデンクライスメソッド

ピアニストのためのフェルデンクライス(松本裕子さん)