〜パーキンソン病の患者さんのためのワークショップを指導させていただきました(2018/1/18)〜
パーキンソン病は、脳に起こる病変のために体の動きに問題が生じる病気です。現在日本には15万人の患者さんがいると言われています。この病気は脳の神経細胞の伝達物質が減少することによって思うように体を動かすことが出来なくなる進行性の病気ですが、原因はまだはっきり解明されていません。一般的には高齢者が発症することが多いのですが、中には比較的に若い人でもパーキンソン病になることがあります。これは若年性パーキンソン病と呼ばれます。
フェルデンクライスのレッスンがパーキンソン病の患者の方にとってメリットがあることについては様々な報告がなされています。どういう利点があるかというと、歩行やバランス、動き全体の改善、積極的になるなどのメンタル面の向上、動きや感覚に注意を向けることによって注意力が増し、行動の質が良くなる、発声や嚥下機能の向上等が挙げられるでしょう。筋トレやストレッチのように部分的に負荷をかけるのではなく、体の動きを全体として捉えるフェルデンクライスのレッスンは、病気の症状によって様々な困難を抱えることになる患者の方々にとって大きな支援のツールになり得ると思います。
写真家の田村智久さんは、ここ2年ほど私の個人レッスン(FIレッスン)を受けていますが、若年性パーキンソン病の患者で、すでに発症後17年が経過している方です。グループレッスンに参加されていた奥様の提案で個人レッスンを受け始めました。初めてお会いした時は、私自身、パーキンソン症候群を患う家族を看ていた経験が過去にあることから、病気の症状に対して感覚的に全く違和感がないことがすぐに分かり嬉しく、打ち解けて、写真のことなど芸術談義を楽しむことができました。そして、レッスンによって、姿勢が改善し、歩行がスムーズになり行動範囲が広がるなど、予想外の大きな効果があり、ご夫婦にとっても嬉しい驚きでした。私が提供したフェルデンクライスのレッスンが今でも写真家としてのお仕事に積極的に取り組んでいらっしゃることの助けになっていると自負していますし、田村さんご夫婦のサポートができるのはとても嬉しいことで、個展開催などのチャンスには必ず出かけるようにしています。
田村さんへのレッスンの経験から、意図した行動を実現することが困難になり、日常の生活やコミュニケーションに問題をきたすようになるという病気の状況は、フェルデンクライスのアプローチによって確かに改善することができると思うようになりました。FIレッスンでは、プラクティショナーが動きを作り出して生徒に動きの感覚を提供するのですが、生徒の方は自分で筋肉を使って(努力をして)動く感覚がないので、様々な動きを自由に体験することができます。脳がダイレクトに感じるので、有効性の高い動き方の学習が早いのですが、自分で動きを作り出すことに問題が起こりがちなパーキンソンの方達にとってこの方法は大いに助けになるようです。
お二人は府中市在住なのですが、地域のパーキンソン病患者とその家族の交流のための集まりである「府中パーキンソン病友の会」の活動にも関わっています。そんなお二人とのつながりから、毎月1回の例会で、フェルデンクライスメソッドを会員の皆さんにご紹介し体験してもらおうということになりました。この病気には有効性が高いはず、という思いがあったので、もちろん、お申し出には二つ返事で承諾させていただきました。
さて、1月18日に開催されたワークショップですが、ここでは個人レッスンではなくて、言葉を使って動きを作り出すグループレッスン(ATMレッスン)を試していただくことになります。個別の対応が若干必要になるであろうことは予想できましたが、なんせ、初めてお会いするパーキンソン病の患者さん達が対象なのですから、やってみなければ分かりません。とにかく、グループレッスン中心のプランを立てて実践してみることにしました。
会場は府中駅前の府中市市民活動センター プラッツ内の会議室です。参加してくださったのは、メンバーの患者さんと家族の方々、一般の方なども含めて、30名ほどでした。フェルデンクライスメソッドについての簡単な説明をした後で、参加者の皆さんがどんなことを期待していらっしゃるかを聞かせていただきました。体のこと、心のこと、生活のこと、、、。1回のワークショップでは到底解決できることではないですが、向かうべき方向を探る上で大いに参考になりますし、願望を口に出すことそのものがレッスンの効果や意味に影響を与えます。そしていよいよレッスンにはいります。今回はすべて椅子に座って行うエクササイズということで、足、股関節、背骨の繋がりを感じることで椅子から立ち上がることが容易くなるようなエクササイズと、手と腕の動きから肩を楽にするエクササイズを実践させていただきました。
皆さん、積極的に取り組んでくださり、質問も出るし、活発なワークショップになり嬉しく思いました。参加された方々にも好評だったとのことで、歩行器を使っていて、普段タクシーを利用している方が、調子が良いので帰りは電車を利用して帰宅されたとか、別の方は肩が痛かったのにすっかり楽になったとか、嬉しいコメントがあったそうです。田村さんからも、皆さん立ち上がった時の姿勢と顔つきが明るくなったのがとても印象的、フェルデンクライスはやはり魔法のエクササイズ、とコメントいただきました。
試行錯誤もあり、次にやる時はどうしようかと考えながらの初回ワークショップでしたが、今後もぜひ、定期的にお手伝いできれば良いなあと思います。反省点としては、やはり病状のことを考慮して、動きのペースを調整可能なものにすることが大事だということでしょう。ゆっくり動きたい方はゆっくり、速く動きたい方は速く動くというような、スピードや動きの大きさの多様性への許容度をあげることが必要であることが良くわかり、次回への反省点となりました。
田村智久さんの写真展が、4月から6月まで府中市郷土の森博物館で開催されます。以下に情報をご紹介しますので、ぜひ足をお運び下さい。田村さんは、「フェルデンクライスとの出会いがあったからこそ、撮影にも出かけることができ、今回の写真展開催が実現できたのだと思います。本当に嬉しいです、ありがとうございます」というお言葉をいただきました。
田村智久写真展「花の森八景 萌えさかる花たちを謳う」
府中市郷土の森博物館にて開催:2018年4月7日(土)〜6月24日(日)
田村智久は、園内の四季折々に咲く花々に魅せられ、ライフワークとして撮り続けていますが、ここで撮影された「未来に残したい私たちの絶景」を収めた作品35点を展示いたします。
開催場所: 府中市郷土の森博物館(本館2階企画展示室)
〒183-0026 東京都府中市南町6-32 tel:042-368-7921
開館時間:9時~17時(入場は16時まで)
※休館日、アクセスなど詳細は、WEBサイトにて確認をお願いいたします。