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レッスンのオンライン化で失ったものと得たもの ~プラクティショナーの視点から~

2021年2月11日

昨年4月からずっとオンラインでフェルデンクライスのATMレッスン(グループレッスン)を指導しています。
オンラインという新しい方法はレッスンを受ける側にとってはとても良い学びの方法であることは明らかなようです。では教えるプラクティショナーの側にとっては果たしてどうなのだろうか?オンラインレッスンしかできない(!)という状況に順応し、1年近くが経過して新しい学び方として定着した中、対面レッスンとどんな違いがあるか、プラクティショナーの視点でオンライン化による体験の変化を考えてみたいと思います。

<開始したころ>

状況の急変への対応策として、昨年4月に試験的にZoomでフリーのクラスを5日間連続で開催してみたところ予想以上に多くの参加者が集まりました。心身のストレス対策としてフェルデンクライスのレッスンへのニーズがあるのは明らかだと判断して定期的な開催をすることにしました。ATMレッスンはオンラインに相性がいいだろうとは開始前から思っていましたが、参加者の反応もとても良く、5月からずっと順調に継続的にレッスンを提供しています。
https://feldenkrais.jp/lesson/online/

<オンラインレッスンの反響>

コロナ渦で、社会全体の活動方法が急速に変化してオンラインでの講習やレッスンは当たり前になったけど、それまでZoomなんかやったことがなかったという人も多く、開始当初はハラハラドキドキすることも色々ありました。そんな中でもフェルデンクライスのレッスンを求める方、興味を持つ方にレッスンの情報が速やかに広がりました。自宅にいながらにしてレッスンが受けられる、周りを気にせずに自分に集中できる学び、ATMレッスンのスタイルがオンラインにピッタリ合致している等、好感を持っていただいています。
最近アンケートをリピート参加者にお願いしてみたのでお読みください

https://feldenkrais.jp/lesson/online/comments.html/

<フェルデンクライスのレッスンの実際は?>

フェルデンクライスのレッスンにはATMレッスンのほかにFIレッスンと呼ばれる個人レッスンがあるが、こちらはプラクティショナーが生徒に触れて動きや感覚を伝えることで成り立つものなのでオンラインではほぼ不可能だ。ATMはそれとは全く違い、基本的に声がけのみによって成立するものなのでオンラインに合っていると言える。しかも主に注意を払うのは自分自身で、レッスン中は他の人に注意を向ける必要がない。(ちなみに、FIレッスンのほうは感染対策を講じて対面継続しています。)

<何が違うか:対面とは違う想像力の使い方>

リアルで目の前にいる生徒の動きや反応を見ながら教えるときには、微細な動きの繋がりや、生徒が何に注意を向けているか、時には表情や感情までも情報として捉えようとしているのですが、画面を通して見るときは絶対的な情報が少なくなります。それで、プラクティショナーは長年のリアルでの経験を生かして、イメージで補って状況を理解しようとするのです。カメラの角度と位置によって見えない部分ができたり、画像が不鮮明だったりして十分に詳細を把握できないこともありますが、そういう条件をクリアしていたとしても基本的に情報が少ないので、生徒の動きを見ているときは常にすごく集中して想像力をフルに使っている状態だといえます。そして、距離が遠いという事実を打ち消すために、自分がすぐ近くにいるとイメージし続けることも必要です。

<動きの細部が見えない>

動きに現れているその人の感情やムードのようなものは画面からは捉えにくいものです。レッスンの後で体験をシェアしてもらうときに、こちら側からは予想外のコメントが少し多いように感じられるのはそのせいかもしれません。動きの質についても同じようなことが言えると思います。スムーズな動きであったり、緊張感のある硬い動きだったりするのがあまりはっきりとは分からないので、何か動きの速度やバランスのような要素で漠然と捉えているようです。例えば呼吸で胸郭がどのように動いているかを観察する時に、胸や背中の動きを見てもどうしてもわかりにくいのです。雰囲気を捉えようと努力しているが、想像してもわからない詳細が多くあります。

<ストレスと疲労>

オンラインの利点として、大勢を一度に見渡すことが簡単にできるということがあるかと思いますが、自分の目がディスプレイから動かないために、長時間集中して続けるとまるで小さな穴から覗いているような感覚になり、目や脳が疲れるという大きなマイナスもあります。パソコンの前から動かないで教えているという状況もまた、身体的なストレスと疲労につながるようです。

 

<オンラインの利点>

コンピュータの画面だけでコンパクトに情報を捉えられることで、レッスンの展開や意図についての思考をまとめることがしやすいようにも思えます。しかし、常に多様な可能性を探し続けるのがフェルデンクライスのレッスンの特徴であるということを考えると、コンパクトに捉えることができないものをどうやって大事にするかが課題なのかもしれません。だとすると情報の圧縮は利点であると同時に、一番大きな問題点なのだと言えます。

これまでの経験ではっきり分かったことは、オンラインでのフェルデンクライスのATMレッスンには対面でのレッスンとは違う良さがあり、レッスンによって得られる学習効果はまったく対面レッスンにひけをとらないということです。

そしてひとりのプラクティショナーとしては、スタートしてからこれまで、充実した学びの時間を参加者と共有してこられたことは、大きな喜びであり貴重な学びの糧となっています。レッスンの質を向上させながら、コロナが収束した後もずっと継続して行こうと思います。

レッスンに参加してくださる皆さんへの感謝を込めて!
失った自由を皆が取り戻す日が早く来ますように!

2021.2.11   かさみ康子